
閉店後の美容サロンには、昼間とは別の匂いがありました。
消毒液と、少し甘いヘアオイルと、何度も洗ったタオルの湿った匂い。
鏡ではなく、ロッカーの扉にぼんやり映った私は、制服の襟を直しながら思いました。
白衣を着たら、もう少し「ちゃんとした人」に見えるのだろうか。
もちろん、白衣は人を立派に見せるための衣装ではありません。命や健康に向き合う人が、知識と責任と一緒に身につける仕事着です。
それでも私は昔から、一度は着てみたいと思っていました。
職業を偽りたいわけでも、病院の廊下を意味もなく早足で歩きたいわけでもありません。
けれど、真っ白な布に袖を通し、背筋を伸ばして働く自分を、ほんの少しだけ想像してしまうのです。
作家を目指している独身女性ブロガーのサクラックです。
飲食業界と美容業界で約10年間、多くのお客様や同僚と接してきました。
現在は婚活もしながら、美容やファッション、仕事、人間関係、恋愛や結婚への迷いを書いています。
完璧とはずいぶん遠い場所にいますが、遠いからこそ見える景色もあると思っています。
飲食店で働いていた頃、制服に着替える時間が好きでした。
私服の私は、朝から靴下の左右を間違えたり、冷蔵庫を開けたまま「何を取りたかったんだっけ」と静止したりする、ごく普通の人です。
けれど制服を着ると、急に「お客様をお迎えする人」になる。
シャツのボタンを留め、エプロンの紐を結び、髪をまとめる。
布が肌に触れるたびに、頭の中の雑音が少しずつ小さくなりました。
美容の仕事でも同じです。
制服には不思議な力がありました。
昨日、友人への返信を考えすぎて寝不足だったことも、婚活アプリで送った文章が妙に業務連絡っぽくなったことも、いったんロッカーに置いていける。
「本日はどうされましたか」
そう声をかける頃には、私は目の前の人に集中していました。
接客の現場で学んだのは、人をきれいにするには、まず自分の心が整っていること。
ただ、現実の私は、毎朝きれいに心を整えられるほど高性能ではありません。
心にも再起動ボタンがあればいいのにと思います。できれば長押し不要のタイプで。
だから私は、ときどき服に助けてもらっていました。
きちんとした襟。
動きやすい袖。
必要なものを入れられるポケット。
仕事のために考えられた一着は、「今日もやるしかないか」と自分を仕事の側へ連れていってくれます。
白衣への憧れも、たぶんそこから始まったのでしょう。
ある日、仕事用の白いジャケットを探していた私は、店員さんにすすめられたロング丈の一着を試着しました。
袖を通して前を留めると、それは思っていた以上に白衣っぽく見えました。
「なんだか先生みたいですね」
店員さんが笑いました。
私も調子に乗って、ポケットに手を入れ、少し低い声で言ってしまいました。
「最近、ちゃんと眠れていますか」
言った瞬間、試着室の外にいた別のお客様と目が合いました。
カーテンは、思っていたより開いていたのです。
私は医師でもなければ、睡眠の専門家でもありません。
夜中にスマートフォンを見て、自分の睡眠時間を自主的に削っている側です。
恥ずかしくなり、慌てて脱ごうとしたら、袖口が腕時計に引っかかりました。
先生役、在任期間およそ十二秒。
その白いジャケットは買いませんでした。
けれど帰りの電車でも、なぜか白衣のことが頭に残っていました。
私が欲しかったのは、賢そうに見える自分だったのか。
それとも、迷いなく仕事をしているように見える自分だったのか。
少し格好悪い本音を言えば、両方です。
人は中身が大切。
そんなことは分かっています。
それでも、服を着た自分を見て「今日の私は大丈夫」と思える朝があってもいい。
ただし、白衣には専門職の責任が宿っています。
私がファッションだけを理由に医療者のように振る舞うのは違う。
憧れることと、肩書きを借りることは、同じではありません。
その線だけは、きちんと引いておきたいと思いました。
その夜、ベッドに座ってスマートフォンを眺めているときに、医療用白衣やスクラブを手がける「クラシコ」を知りました。
白衣を探していたというより、昼間の恥ずかしさを検索履歴で薄めたかっただけかもしれません。
人は失敗すると、なぜか関連商品に詳しくなります。
画面の中の白衣は、私が学校の理科室で見たものとは印象が違いました。
クラシコのレディース白衣には、ドクターコート、ショート丈、ジャケット型などがあります。
テーラードの考え方を取り入れたデザインと、仕事着としての機能性を両立させているのが特徴です。
スクラブも、色やシリーズ、素材の選択肢が幅広く、ただ「汚れにくければいい」という服には見えませんでした。
公式サイトでは、ストレッチ、透け防止、吸水速乾、軽量など、商品ごとの特徴で絞り込めます。
毎日長い時間を過ごす服だからこそ、見た目だけでなく、動きやすさや手入れのしやすさまで選べるのは現実的です。
白衣やスクラブには、指定できる商品でネーム刺繍やロゴ刺繍を加えるサービスもあります。
名前が入った一着には、単なる所有物とは違う緊張感がありそうです。
「かわいい。着てみたい」
最初に出た感想は、やはりそれでした。
でも、その次に思ったのは、
「これは、毎日この服で働く人のためにつくられたものなんだ」
ということでした。
私がたまに袖を通して気分を上げる服と、医療従事者が忙しい現場で着続ける服では、求められるものが違います。
ポケットの位置、腕の動かしやすさ、生地の重さ、洗濯したあとの扱いやすさ。
写真だけでは分からない部分こそ、仕事着では大切になります。
価格を見たときは、正直に言えば、私の中の家計担当者がすぐに電卓を取り出しました。
「白衣って、もっと消耗品に近い価格だと思っていた」
クラシコには比較的選びやすいシリーズもありますが、デザインや機能にこだわった一着は、気軽に何枚も買えるとは限りません。
だから、サイズ表だけで決めず、手持ちの服の実寸と比べること。
勤務先の服装規定や洗濯方法を確認すること。
自分に必要な機能を絞ることが大切だと思います。
刺繍を入れる場合は追加料金がかかり、商品によっては対応できないこともあります。
名前を入れたあとで「やっぱりサイズが……」となると、私なら数日ほど天井を見つめるでしょう。
注文前に、返品・交換条件や刺繍商品の扱いも公式サイトで確認しておきたいところです。
反対に、価格の安さを最優先したい人、勤務先から支給されたウェアで十分な人、頻繁な買い替えを前提にしている人には、向かない場合もあると思います。
けれど、一日の多くを過ごす仕事着に、動きやすさだけでなく「これを着て働きたい」という気持ちまで求める人には、見てみる価値がある。
医師や看護師だけでなく、歯科、動物医療、美容医療など、職場のルールに合うメディカルウェアを探している人にとって、自分らしい一着を考える入口になりそうです。
▼クラシコのレディース白衣・スクラブを見る
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クラシコを眺めながら、私は少しだけ白衣への憧れの正体が分かった気がしました。
欲しかったのは、医師に見えることではありませんでした。
「私はこの仕事をする」と、自分で決めた人の姿に憧れていたのです。
美容の現場にいた頃も、私は毎日、自信満々だったわけではありません。
お客様に似合うものを提案したあとで、「あの言い方でよかったかな」とバックヤードで反省したことがあります。
同僚の手際のよさを見て、自分だけ三秒ほど遅れている気がした日もありました。
それでも制服を着てフロアへ戻ると、やるべきことが見えました。
服は能力を授けてくれません。
白衣を着ても知識は増えないし、スクラブを着ても判断力が突然上がるわけではない。
私が白いジャケットを着ても、相変わらず夜更かしはします。
けれど服は、すでに自分の中にある覚悟を思い出させてくれることがあります。
クラシコが白衣を、ただの作業着ではなく、誇りを持って働くための仕事着として考えていることに、私は惹かれました。
私自身が医療用白衣を仕事で着る予定は、今のところありません。
だから、憧れだけで買って医療者になりきるのではなく、まずはその一着を必要としている人にすすめたい。
そして私は私で、文章を書く日の「制服」を探してみようと思います。
襟のあるシャツでもいい。
少し上質なカーディガンでもいい。
机に向かう自分の背中を、そっと押してくれる服ならいいのです。
あの夜と同じように、スマートフォンの白い画面が手のひらを照らしています。
画面の中には、すっと背筋を伸ばした白衣姿。
画面のこちら側には、部屋着の袖を少しまくり、冷めかけたコーヒーを飲む私。
完璧な対比です。
雑誌なら、たぶん私は掲載されない側でしょう。
それでも今夜は、以前ほど自分を頼りなく感じません。
白衣のポケットに入れたかったのは、資格のない私を立派に見せる魔法ではなく、「自分の仕事を大切にしたい」という気持ちだったのかもしれません。
いつか私にも、袖を通すだけで背筋が伸びるような一着が見つかるでしょうか。









