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ごはんを炊き忘れた夜、スマホで動く炊飯器が気になった

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夜のキッチンで、私は炊飯器に謝っていた。

「あなたは悪くない。悪いのは、二時間前の私です」

炊飯ボタンを押したつもりで押していなかった。
内釜には、水に浸かったままの無洗米。時計は午後九時十二分。

冷蔵庫には卵が二個と、賞味期限に緊張感のある豆腐が一丁。

湯気の立つごはんを想像して帰ってきた私の前にあったのは、夕食ではなく「これから約一時間待ちます」という現実だった。

私はスマートフォンを握ったまま思った。

炊飯器までスマホで動かせる時代なのに、なぜ私の炊飯器は、私の「押したつもり」を察してくれないのだろう。

目次

ごはんを炊き忘れた夜、スマホで動く炊飯器が気になった

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丁寧な暮らしは、炊飯ボタンの手前で止まっている

ひとり暮らしをしていると、自分のためだけに何かを準備することが、妙に面倒になる日がある。

誰かが待っているわけではない。
夕食が少しくらい遅れても、文句を言う人はいない。

だから私は、ときどき自分との約束を驚くほど雑に扱う。

朝は「今日は帰ったら、ごはんを炊いてお味噌汁も作ろう」と思っている。仕事や買い物を終えて帰宅する頃には、「パンでもいいか」に変わり、お風呂から出る頃には「ヨーグルトは食事に含まれるのか」という哲学が始まる。

丁寧な暮らしに憧れていないわけではない。

白い湯気が立つごはん。
小さなお椀に入れた味噌汁。
きれいに切った漬物。

そういう食卓をSNSで見るたび、「私だって、その気になれば」と思う。

問題は、その気がなかなか我が家を訪問してくれないことだ。住所は合っているはずなのに。

私は飲食業界と美容業界で約十年間働いてきた。

飲食店にいた頃は、お客様に料理を出す時間にはとても敏感だった。ごはんの残量を確認し、次に必要になる量を考え、少し早めに準備する。お客様を待たせないためなら、先回りして動けた。

ところが、自分ひとりの食事になると急に段取りが崩れる。

お客様には温かい料理を出したいのに、自分には冷蔵庫の前でチーズを一枚。接客中の私は気配り上手だったが、自宅の私はときどき野生に戻る。

それでも、本当は炊きたてのごはんが好きだ。

蓋を開けた瞬間の、やわらかな湯気。
お米のほのかな甘い香り。
しゃもじを入れたときの、ふっくらとほどける感触。

ごはんが炊けているだけで、「今日は生活が成立している」と思える。

反対に、炊き忘れた夜は、ほんの小さな失敗なのに、自分の暮らし全体がだらしないような気持ちになる。

作家を目指してブログを書き、婚活もして、これからの仕事やお金のことも考えている。頭の中ではいくつもの将来を同時に炊いているのに、目の前のお米は炊けていない。

この温度差には、我ながら笑うしかなかった。

「誰かのため」ならできるのに、私の夕食は後回し

以前、婚活で会った人に聞かれたことがある。

「普段、自炊するんですか?」

私は一秒だけ姿勢を正し、

「はい。家ではなるべく作るようにしています」

と答えた。

嘘ではない。
ただし、「なるべく」という言葉には、冷凍うどんも納豆ごはんも、買ってきたサラダも全部入っている。日本語は懐が深い。

その日の帰り道、私は少しだけ落ち込んだ。

料理上手に見られたかったわけではない。けれど、自分の暮らしをちゃんと大切にしている女性だと思われたかったのだと思う。

誰かに選ばれるためではなく、自分が帰りたくなる家をつくりたい。

そう思っているのに、実際の私は炊飯ボタンを押し忘れ、午後九時過ぎに豆腐を見つめている。

きれいな理想と、少々くたびれた現実。

その間を埋めるのは、根性だと思っていた。

もっと早く動く。
忘れないようにする。
休日に作り置きをする。
まとめて炊いて冷凍する。

けれど、できない日があるたびに「また続かなかった」と感じる方法は、私には少し苦しかった。

そんな夜、スマートフォンで「炊飯器 炊き忘れ」と検索していて見つけたのが、パナソニックの自動計量IH炊飯器「SR-AX1」だった。

最初に目へ入ったのは、「米と水の計量から炊飯まで全自動」という言葉。

正直、私は少し疑った。

全自動といっても、どうせ最初にお米を量って、水加減を見て、内釜をセットして、それからアプリを開くのだろう。

家電の「かんたん」は、説明書を読める人だけが入れる会員制クラブのことがある。

ところがSR-AX1は、本体の米タンクに無洗米、水タンクに水を準備しておけば、設定した量を自動で計量し、内釜へ送って炊飯してくれるという。

専用の「キッチンポケット」アプリから、炊く量やコース、炊き上がり時刻を設定し、外出先から炊飯を始めることもできる。

帰宅時間が変わったときには、予定に合わせて設定を変更できる。

「それ、二時間前の私に教えてあげて」

思わず声が出た。

スマートフォンは婚活相手からの返信を待つためだけにあるのではない。未来の自分へ、炊きたてのごはんを送ることもできるらしい。

少しだけ、スマホとの関係が健全になりそうだった。

月額1,980円を見て、心の中の経理担当が立ち上がった

私が気になったのは、パナソニックの定期購買サービス「foodable」にある「自動計量IH炊飯器と無洗米コース」。

公式ページを確認すると、自動計量IH炊飯器SR-AX1の新品レンタルと、初月の無洗米2kg×3袋がセットになり、月額1,980円(税込・送料込)となっている。

炊飯容量は0.5合から2合まで。

たくさん炊いて家族全員で食べるというより、一人分や二人分をその都度炊きたい暮らしに似合うサイズだ。

私は月額料金を見て、すぐに電卓を開いた。

便利そうと思った次の瞬間に年間金額を計算する。これが年収300万円で暮らす独身女性の条件反射である。心の中に小さな経理担当者が住んでいて、新しい家電を見つけるたびに腕組みをする。

「本当に使うんですか?」

脳内経理担当の目は厳しい。

便利な家電を買っただけで、丁寧な人になれるわけではない。過去には、健康のために買った調理道具を戸棚の奥で長期休暇に入らせた経験もある。

だからこそ、購入ではなく定額で試せる形は気になった。

ただし、ここは勢いだけで申し込みたくないところでもある。

2026年8月に公式ページを確認した時点では、最低利用期間は18か月。期間中の解約には中途解約手数料がかかり、機器の返送料も自己負担になる。

初月に届く無洗米は2kg×3袋だが、食材が同じ内容で毎月届くコースではない。無洗米の配送は初月のみで、その後は会員価格で追加購入できる仕組みだ。

「月額だから、とりあえず一か月だけ」という試し方ではないことは、先に知っておきたい。

18か月分の月額料金を単純に合計すると35,640円。さらに、最低利用期間終了後に買い取る場合の金額などは、申込時のサービス利用条件で確認が必要になる。

月額1,980円という数字だけを見るのではなく、利用期間全体で考える。

このひと手間は、お米の計量より面倒かもしれないけれど、お金の後悔を減らすためには大切だと思う。

SR-AX1自体にも、暮らしとの相性がある。

使えるのは無洗米で、一般的な精白米を洗って炊く使い方には対応していない。炊き込みごはんや玄米も炊けず、保温機能も付いていない。

保温がないと聞いたときは、「そんな思い切った別れ方があるのか」と驚いた。

炊きたてを食べ切ることを前提とした炊飯器なので、炊飯後一時間以内に食べない分は、別の容器に移して冷凍することが推奨されている。

また、スマホ操作にはインターネット環境や対応する無線LANルーター、アプリの設定が必要だ。水タンクの水も炊飯のたびに交換する。

つまり、何もしなくても永遠にごはんが現れる魔法の箱ではない。

米タンクへの無洗米の補充、水タンクの入れ替え、内釜とおひつ蓋の洗浄は必要になる。

「全自動」という言葉から、炊飯器が自分で水道まで歩いていく姿を想像してはいけない。そこまで進化したら、私は炊飯器より先に人間として反省したい。

それでも、毎回のお米と水の計量がなくなり、外出先で予定に合わせて炊飯を始められるのは魅力的だ。

仕事の終了時刻が読めない人。
帰宅してから炊飯準備をするのが負担な人。
まとめ炊きより、少量の炊きたてを食べたい人。
自分のためだけだと、つい食事を後回しにしてしまう人。

そんな暮らしには、うまくはまりそうだ。

反対に、家族分を一度にたくさん炊きたい人、保温をよく使う人、玄米や炊き込みごはんを楽しみたい人、スマホやWi-Fiの設定を面倒に感じる人には向きにくい。

便利かどうかは、機能の数より「自分が毎日どこでつまずいているか」で決まるのだと思う。

私の場合、つまずいている場所は料理そのものではなかった。

帰宅して、米を量り、水を入れ、炊飯を始める。
その最初の数分へたどり着けないことだった。

欲しかったのは、未来の私から届く湯気だった

便利な家電を見ると、私は少し後ろめたくなることがある。

これくらい自分でやればいい。
昔からみんなやってきた。
楽をするために毎月お金を払うのは、ぜいたくかもしれない。

けれど、飲食店で働いていた頃を思い返すと、厨房には作業を助ける道具がいくつもあった。

人がさぼるためではない。

忙しい時間にも味を安定させ、余裕をなくさず、お客様へ気持ちよく料理を届けるためだった。

美容業界でも同じだった。

道具や仕組みに任せられる部分があるからこそ、目の前の人の話を聞いたり、ちょっとした変化へ気づいたりできた。

それなら、自分の暮らしでも、道具に助けてもらっていいのかもしれない。

私が欲しいのは、「最新家電を持っている自分」ではなかった。

疲れて帰った夜、ドアを開けたときに感じる炊きたての香り。

誰かが用意してくれたように見えて、実は朝の私が、夜の私へ準備しておいた夕食。

スマートフォンで炊飯を始めることは、家事をさぼる操作ではない。少し先の自分を気にかける操作なのだと思った。

もちろん、foodableのコースが誰にとっても正解とは限らない。

18か月という利用期間は短くないし、食材が届くのは初月のみ。使えるお米やメニューにも制限がある。申し込むなら、置き場所も確認したい。本体は幅約17.6cmと細身だが、奥行きと高さは約33.6cmある。

私はまず、キッチンに置けるかをメジャーで測った。

勢いよくメジャーを伸ばしたら、先端が調味料の瓶に当たり、塩の瓶だけが派手に倒れた。

便利な炊飯器を迎える前に、キッチンの整理が始まる。最新家電は、まだ届いていない段階から私を働かせる。

それでも、その小さな騒ぎのあとに残った空間を眺めると、少し気持ちがよかった。

新しい家電を検討することは、単に物を増やすことではなく、「これから、どんなふうに暮らしたいか」を考えることなのかもしれない。

毎日きちんと料理をしなくてもいい。

疲れた日は卵かけごはんでもいいし、納豆だけの日があってもいい。

ただ、せめて温かいごはんくらいは、自分のために用意してあげたい。

そのために、スマホで操作できる最新の炊飯器を試してみる。

そんな選択があってもいいと、私は考えるようになった。

あの夜、水に浸かったままのお米は、結局午後十時を過ぎてから炊き上がった。

蓋を開けると、白い湯気が眼鏡を曇らせた。待たされた分だけ、お米の香りが少し大げさに感じられた。

私はスマートフォンを伏せ、遅すぎる夕食を食べた。

完璧な食卓ではない。
おかずは冷ややっこと卵焼き。
卵焼きは少し焦げていた。

それでも、ごはんは温かかった。

次は帰宅する前に、スマートフォンから炊飯を始められるかもしれない。

未来の私へ炊きたてのごはんを予約するとしたら、あなたは何時にセットしますか?


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