夏の肌は、汗をかいているのに喉が渇いている

7月21日。二十四節気の「大暑」を目前にした今ごろは、朝の空気まで、もう少しで沸騰しそうです。
玄関を開けた瞬間、むわっと押し寄せる熱気。駅まで歩いただけで前髪はしんなりして、首筋には汗が一列に並びます。
こんな季節に「肌が乾燥しています」と言われても、正直、最初は信じられませんでした。
だって、顔はしっとりしているのです。
いえ、しっとりというより、かなりベタベタしています。
鼻には皮脂が浮き、ファンデーションは毛穴のまわりで小さく崩れ、夕方になると前髪まで額に張りついています。冬のように頬が粉を吹いているわけでもありません。
それなのに、洗顔後の肌は妙につっぱります。
笑うと頬の奥がピリッとする日もあります。目元には、朝にはなかった細い線がうっすら現れます。
「汗をかいているのに、どうして乾いているの?」
ずっと不思議でした。
でも、考えてみれば、夏の肌は一日の中で何度も環境を変えられています。
外では強い紫外線にさらされ、汗が流れ、ハンカチやティッシュで何度も拭かれます。やっと室内に入ったと思ったら、今度はエアコンの風を正面から浴びます。
そして私は、崩れたメイクを直すために皮脂を取り、ミストをかけ、ファンデーションを重ねます。
肌にとっては、外と室内を行き来するたびに、真夏と乾いた小部屋を往復しているようなものです。
気象庁によると、日本では一般的に7月から8月に紫外線が最も多くなります。つまり今は、肌が一年の中でもかなり忙しく働いている時期です。気象庁「オゾン・紫外線について」
夏は、肌が元気に見えます。
汗で光っているからです。
けれど、その光を「うるおい」だと思い込んでしまうと、肌が出している小さなSOSを見落としてしまいます。
私も、ずっと見落としていました。
オーストラリア発オーガニックコスメブランド【ジュリーク(Jurlique)】汗をかくたび、私は自分の顔を“なかったこと”にしていました
美容業界で働いていたころ、夏の休憩室には小さな儀式がありました。
鏡の前に立ち、汗を拭き、皮脂を取り、崩れた部分を隠します。
接客の仕事ですから、清潔感は大切です。疲れた顔のままお客様の前に立ちたくないという気持ちもありました。
私は汗をかくたびに、ティッシュを顔へ強く押しつけていました。
額、鼻、頬、あご。
まだ気になるときは、もう一度。
それから皮脂吸着タイプの下地を塗り、パウダーを重ねます。これで安心したつもりになっていました。
けれど夕方には、口元がカサカサしていました。
ファンデーションがきれいにのらないと、さらに重ねます。重ねるほど汚く見えて、また拭き取ります。
朝に作った顔を、昼に壊し、夕方に修復する。
毎日、自分の顔を小さな工事現場にしていました。
ある日、休憩室の鏡を見ながら、急に悲しくなりました。
「私、何と戦っているんだろう」
汗は、体温を調節するための自然な働きです。
それなのに私は、汗をかいた自分を「だらしない」と感じていました。メイクが崩れた顔を、人に見せてはいけないもののように扱っていました。
汗そのものだけでなく、汗を何度もこすって拭くことや、洗浄力の強いもので繰り返し落とすことも、肌への負担になり得ます。
それから私は、汗を消そうとするのを少しやめました。
ハンカチで横にこするのではなく、清潔な布やティッシュでそっと押さえます。帰宅後は「今日も汗をかいたから」と二度も三度も洗わず、ぬるま湯と普段の洗顔料でやさしく落とします。
ベタつく日も、化粧水だけで終わらせず、乳液やジェルなど、自分の肌に合う保湿剤を薄く重ねます。
以前の私は、夏に乳液を使うとニキビができそうで怖かったのです。
でも必要だったのは、顔を油で覆うことではありませんでした。
「ベタつかない量を、自分の肌と相談しながら使うこと」でした。
スキンケアは、多く塗った人が勝つ競技ではありません。
今日の肌が何を嫌がり、何なら受け入れてくれるのか。それを毎晩、聞き直す作業なのだと思います。
毛穴黒ずみもすっきりブースターウォーターエアコンの中で、肌だけが季節を見失っていました
真夏の外から、冷房のきいたカフェへ入った瞬間。
「ああ、生き返った」
そう思います。
汗が引き、髪の広がりも落ち着き、冷たいアイスコーヒーを一口飲むと、やっと人間へ戻れた気がします。
けれど、そこで二時間ほどパソコンに向かっていると、頬が妙にこわばってきます。
特に乾きやすかったのが、エアコンの風が当たる側の頬でした。
右側から風を受けている日は、右の目元だけが乾きます。最初は偶然だと思っていましたが、席を変えると乾く場所まで変わりました。
そのとき、エアコンは部屋だけでなく、私の肌からも少しずつ夏を奪っているのだと感じました。
外は湿っている。室内は涼しい。
その落差に、肌だけがついていけていなかったのです。
花王の製品開発資料でも、蒸し暑く汗ばむ屋外と、エアコンのきいた乾いた室内では、肌を取り巻く湿度環境が異なることが説明されています。花王「ビオレUV アクアリッチ エアリーホールドクリーム」
だから私は、夏のスキンケアを「朝と夜だけのもの」と考えるのをやめました。
エアコンの風が顔へ直接当たらない席を選びます。難しいときは風向きを変えます。日中に乾きを感じても、メイクの上から意味もなく何度もミストを浴びるのではなく、清潔な手で乾燥している部分へ少量の保湿剤をなじませます。
ミストを使う場合も、吹きかけたまま満足せず、製品の使い方に従い、必要なら乳液などで補います。
日焼け止めも、朝に一度塗れば一日が終わるわけではありません。
汗をかいたり、タオルで拭いたりすれば、塗膜は乱れます。外出時間や肌状態を見ながら、無理のない方法で塗り直します。
帽子や日傘、日陰も頼ります。
私は以前、日傘を差すと「美容を頑張っている人」に見られそうで、少し恥ずかしいと思っていました。
今考えると、その遠慮は誰のためだったのでしょう。
通りすがりの人は、私が日傘を差していたことなど、三秒後には忘れています。
それなのに私は、知らない誰かの視線を気にして、自分の肌を後回しにしていました。
汗をかくのも普通。
メイクが崩れるのも普通。
日傘を差すのも、室内で保湿するのも普通です。
令和の女性は、きれいでいるために我慢するのではなく、自分が快適でいる方法を選んでいいはずです。
4種の和漢エキス×ヒト幹細胞の贅沢ダブル配合【シロメル】乾燥の犯人を見つけた夜、鏡の前で泣きそうになりました
その日は婚活で知り合った人と、夕方から会う予定でした。
久しぶりの食事だったので、朝から少し気合いが入っていました。
毛穴を隠す下地を塗り、崩れにくいファンデーションを重ね、パウダーも丁寧にのせました。
家を出た瞬間から汗が流れました。
駅のホームで拭き、電車の中で拭き、待ち合わせ前に化粧室で拭きました。鏡を見るたび、「まだ足りない」「もっときれいにしなきゃ」と思いました。
食事中、相手の人が私の顔をじっと見ている気がしました。
口元のファンデーションが割れているのかもしれない。
鼻の横が崩れているのかもしれない。
会話の内容より、自分の肌ばかりが気になりました。
帰宅後、私はすぐにクレンジングをしました。
一度では落ちていない気がして、もう一度洗顔しました。それでも毛穴が気になり、拭き取り化粧水まで使いました。
洗面台の鏡に映った頬は、赤くなっていました。
触ると、少し熱を持っていました。
私はその顔を見て、相手の反応を思い出しました。
「きっと、肌が汚いと思われたんだ」
胸の奥が重くなりました。
もう連絡は来ないかもしれない。婚活も美容も、何をやってもうまくいかない。
そんなふうに、たった一日の肌荒れから、自分の人生全部を悪い方向へ決めつけようとしていました。
そのとき、スマートフォンが鳴りました。
相手からのメッセージでした。
少し怖くて、すぐには開けませんでした。
覚悟を決めて画面を見ると、そこにはこう書かれていました。
「今日、途中から目が赤かったけど大丈夫? エアコンの風、ずっとそっちに当たっていたよね。席を替わればよかった。気づくのが遅くてごめん」
私は、しばらく動けませんでした。
相手が見ていたのは、崩れたファンデーションではありませんでした。
私の毛穴でも、乾燥した口元でもありませんでした。
体調を心配して、顔を見てくれていたのです。
そして、本当の意味で私の肌を傷つけていたのは、紫外線だけでも、汗だけでも、エアコンだけでもありませんでした。
「完璧な顔でいなければ、私は大切にされない」
そう信じて、何度も拭き、隠し、落とし、自分の肌を責め続けていた私自身でした。
もちろん、夏の乾燥対策は必要です。
紫外線を避け、汗はやさしく押さえ、洗いすぎを控え、肌に合った保湿をする。赤みやかゆみ、痛みが続く場合は、自己判断で化粧品を重ねず、皮膚科へ相談することも大切です。
けれど、それだけでは足りませんでした。
私に必要だったのは、肌を管理することより、肌の調子が悪い日の自分まで雑に扱わないことでした。
毛穴が目立つ日もあります。
汗で前髪が終わる日もあります。
冷房で頬がつっぱり、笑顔までぎこちなくなる日もあります。
そんな日は、きれいになる努力が足りないのではありません。
肌も私も、暑さの中で十分に頑張っています。
7月の夜、外ではまだ昼間の熱が道路に残っています。
大暑を迎えるころの空気は、日が沈んでも簡単には冷めません。
だからせめて、自分を見る目だけは、少し涼しく、やわらかくしてあげたいです。
今日の肌に必要なのは、もう一回の洗顔ではないかもしれません。
高価な美容液でも、新しいファンデーションでもないかもしれません。
「今日はもう、これ以上きれいにしなくていいよ」
鏡の前の自分にそう言って、そっと手を離すことかもしれません。
あの夜、私が最後に塗ったのは美容液ではありませんでした。
赤くなった頬を冷やし、最低限の保湿をして、スマートフォンを伏せました。
そして、自分に向かって小さく言いました。
「ごめんね。いちばん強くこすっていたのは、肌じゃなくて、私の心だったね」
夏の肌は、汗をかいていても乾きます。
そして私たちの心も、笑っていても、ときどき乾いています。
どちらにも必要なのは、さらに頑張ることではありません。
気づいて、立ち止まって、これ以上傷つけないことです。
今夜、洗面台の鏡を見たとき、どうか欠点を探す前に、一日を乗り切った顔を見てあげてください。
その顔は、あなたが思っているより、ずっときれいです。
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参考サイト:
